3/16 魔女のいる花屋

最近、生活リズムがぐちゃぐちゃだ。
朝の4時に寝て、昼の12時に起きる。
学生のうちしかできないからね、こういう生活は。
どうにかして元のリズムに戻したいけれど、
とにかく自分に甘いのでどうにもならない。
困った。
4月から社会人になるのに、
私はこんな感じで大丈夫なのだろうか。




おじいちゃんが亡くなって、
ママはここ2週間くらい静岡に帰省している。

おじいちゃんの額は冷たくて少し弾力があって
雪見だいふくみたいだなあ
って不謹慎だけどそう思った。
もう生きてないんだな。
カラオケ一緒に行ってみたかったな。
たくさん泣いてお別れをする。
棺の中で花に囲まれている姿は
ミレーのオフィーリアを彷彿とさせた。
そういえば、樹木希林がオフィーリアに扮した
宝島社の広告をご存知だろうか。

死ぬ時くらい好きにさせてよ

というキャッチコピーに衝撃を覚えた。
おじいちゃんは最期、後悔なく逝けたのかな。
1人でいるとぼんやり寂しくなる時がある。
その時間が少し増えたような気がしている。

ママに
「家のこと任せたよ。」
と言われた。
いつまでも悲しい気持ちでいる訳にはいかない。
よし、やってやるぞ。
そう意気込んで頑張ってはみるものの、
普段まるで家事をしない私は失敗ばかりしている。

お風呂の蓋を開けたらお湯が溜まっていなかった。
栓を閉め忘れていた。
思いつきで作ったにんじんのポタージュは
びっくりするくらいまずかった。
観葉植物に毎日水をあげていたら、
元気がなくなってしんなりしてしまった。
(水は4日に1回くらいあげればいいらしい。)
私はこんな感じで大丈夫なのだろうか。




起きてすぐに洗濯をした。
出かける時間が迫っていて、
急いで身支度を整えて家を飛び出た。
手袋もマフラーもいらないくらい、
もうすっかり春で最近ずっと機嫌がいい。
気候が穏やかだと気持ちも穏やかになる。




高校時代の友人が大好きだ。
今日はBちゃんの誕生日。
Aちゃんと2人でサプライズを計画した。
プレゼントを決めて、お店を予約して。
計画がばれないように演技もした。
喜んでくれるといいなあ。
電車はゆっくり地下に潜っていく。




午後2時半。
栄の待ち合わせ場所と言えばクリスタル広場。
Aちゃんと落ち合って、三越の化粧品売り場へ。
GIVENCHYが見当たらない。
調べたら、松坂屋にあるらしい。
近場にあってよかったねえって話をしながら
大須方面へ向かって歩く。




GIVENCHYの売り場を見つけてほっと安心する。
スミレみたいな紫色のキラキラ光るグロス
Bちゃんが前にTwitterで欲しいって呟いてたのを
私もAちゃんも覚えていた。
人の体温でグロスの色が変わるんだって。
理科の実験みたいで面白いなって思いながら、
お会計を済ませて松坂屋を出た。




女の子は花をあげると喜ぶ。
と私は思っている。
可愛い子の前でつい格好つけたくなるのは
どうしてだろう。
今年のBちゃんの誕生日には、
絶対花をプレゼントしようと決めていた。

ジャズ喫茶YURIの角を曲がって少し歩いたところに
魔女の花屋がある。
本当に魔女がいるわけではないんだけど、
きっとみんな見たら分かるよ。
あっ、いるな って思う。

木の扉を開けると観葉植物が並んでいて
その先にあるガラスの扉をゆっくり開けると、
ムッと花の香りがする。

お店のお姉さんに
「メインの花を決めてほしい」
と言われて、
赤と黄色のまだら模様のチューリップを選んだ。
少しAちゃんと話をしていると、
こんな感じでどうですかと花束を見せてくれた。
ミモザを入れてくださいと頼んで、
ラッピングをしてもらう。
こんなかっこいい花束があるかよ、と思った。
これから花をプレゼントする時は
魔女にお願いしよう。




Bちゃんと矢場町で落ち合って、
ロフトの近くで時間を潰す。
素敵なお店がたくさんあって、
歩いているだけで楽しい。
この辺りを歩いている人は
都会的でセンスがいい人が多い気がする。





午後6時。
予約していたカフェに向かう。
初めて3人揃ってお酒を飲んだ。
大人になったんだなあと思う。

「最近いいことあった?」
「ぼちぼちかな」
「ちょっと太ったんだけど分かる?」
「確かに顔丸くなった気がするわ」
「あ、この唐揚げ美味しいね」
「最後の1個食べていーよ」
「えー、また太っちゃうからな」
「いや食べるんかい」

他愛もない話をして、
メインディッシュを食べ終わった。
私もAちゃんもそわそわし始める。

そろそろ来る。
来るぞ…。

お誕生日おめでとうございま〜す
と店員さんがケーキを持ってきてくれた。

Bちゃん、驚いてた。
鳩が豆鉄砲を食らった時の顔だった。
電話で伝えた通りプレートには
HAPPYBIRTHDAY Bちゃん
と書かれていた。

魔女の花束と、スミレ色のグロスを渡す。
今までにないくらい幸せそうな友達の顔を見ながら飲むファジーネーブルはいつもより美味しい。




この3人で集まる時、帰りはいつもあっさりだ。
駅まで歩いて、
「じゃここで。お疲れ様。」
それだけ言って解散する。
2人の背中を見送って、名城線のホームに向かう。




地元の駅に着いた。
自転車を漕ぎ始めると、ぽつぽつ降り始めた。
今日あったことをひとつひとつ思い出す。
畑の土の匂いがする。
おばあちゃんにもらった金色の指輪が
街灯に照らされ中指でつやめく。
3月の夜はあったかいから、
雨に打たれても嫌な気持ちにならない。

いつまでも春が続けばいいのに。